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東京地方裁判所 平成2年(ワ)2号 判決 1990年6月27日

原告 甲野太郎

被告 国

右代表者法務大臣 長谷川信

右指定代理人 田口紀子

<ほか七名>

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、一〇〇万円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  被告

主文と同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  原告は、所定の手続に従って平成元年度大学入学者選抜共通第一次学力試験(以下「第一次試験」という。)の受験の出願をして、同年一月二一日及び同月二二日に実施された右試験を受験し、同年二月に北海道大学長に対して平成元年度北海道大学医学進学過程への入学願書を提出し、同年三月五日に実施された同年度北海道大学第二次入学試験(医学進学過程)(以下「第二次試験」という。)を受験した。

2  北海道大学長は、学校教育法施行規則六七条、北海道大学入学者選抜委員会規程(昭和五三年二月一五日海大達第八号)四条の各規定に従い、第一次試験及び第二次試験の成績、健康診断の結果並びに高等学校の調査書等の内容を総合して、北海道大学入学者選抜委員会の議により合格者の決定を行い、同年三月二二日に合格者の発表及び合格者へのその旨の通知を行い、さらに、同月二八日に追加合格者の発表及び追加合格者へのその旨の通知を行ったが、原告はそのいずれに際しても、合格者とはされなかった。

3  しかしながら、原告の第一次試験及び第二次試験の答案の自己採点の結果や進学情報資料等に基づいて判断すると、原告の第一次試験の成績は、八〇〇満点中六四三・五点であって、北海道大学医学進学過程への志願者五五五人中四〇位以内であり、また、原告の第二次試験の成績は、志願者五五五人中一四〇位以内であって、原告は、北海道大学医学進学過程への合格圏内にあったものである。

ところが、大学入試センター又は北海道大学長は、原告の成績又は順位の決定に当たって、公表されている正解や成績評価基準又は第一次試験と第二次試験との配点率等に従わないなどの人為的操作を加え、北海道大学長は、これに基づいて、原告に対して、違法に不合格処分をしたものである。

4  原告は、北海道大学長のした違法な右不合格処分により、同大学医学進学過程における教育を受ける機会を奪われて、精神的苦痛を受けたほか、検定料、受験費用等を出捐して財産上の損害を被ったが、これらの損害は、合計一〇〇万円を下らない。

5  よって、原告は、国家賠償法一条一項の規定に基づき、被告に対して、損害賠償金一〇〇万円の支払いを求める。

二  請求原因事実に対する被告の認否

1  請求原因1及び2の事実は、認める。

2  同3及び4の事実は否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1及び2の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そして、原告の本訴請求は、原告が受験した第一次試験及び第二次試験の成績評定の適否に対して司法審査が及ぶものであることを前提として、北海道大学長が原告に対してした入学不許可処分(昭和六四年度大学入学者選抜実施要領(昭和六三年五月二五日文高大第一八七号高等教育局長通知)及び昭和六四年度北海道大学学生募集要項によれば、北海道大学長が北海道大学入学者選抜において合格者に対してする合格通知は、被通知者が所定の期間内に入学料及び授業料の納付その他の入学手続を完了することを条件とする入学許可の性質を有するものであって、その反面として、予定された期間内に合格通知がされなかった志願者に対しては、入学不許可処分がされたことになるものであることを認めることができる。)の違法を理由とする国家賠償を求めるものである。

ところで、学校教育法施行規則六七条、北海道大学入学者選抜委員会規程、前掲昭和六四年度大学入学者選抜実施要領、昭和六四年度大学入学者選抜共通第一次学力試験実施要領(昭和六三年六月一日入試セ試第一〇号大学入試センター所長通知)及び前掲昭和六四年度北海道大学学生募集要項によれば、北海道大学においては、平成元年度における入学者選抜に当たって、各国立大学が大学入学センターと協力して共同して実施する第一次試験及び北海道大学が実施する第二次試験の各成績、健康診断の結果並びに出身高等学校長から提出される調査書等の内容を用いて、志願者につき大学教育に必要な基礎的能力・適性の程度及び大学・学部の目的、特色、専門分野等に応じて重視される能力・適性の程度を多角的・総合的に判断して、志願者の能力・適性に応じて大学に進学させ、各人の人格・資質・学力・知識等の個性に即してその能力・適性のより適切な伸長を図ることとするいわゆる総合判定主義が採用され、その判定の適正を期するため、北海道大学長、教授等をもって組織される北海道大学入学者選抜委員会が設置され、右委員会は、第二次試験の成績評定を行うとともに、これに第一次試験の成績、健康診断の結果及び調査書等の前記の資料を併せ用いて入学者選抜における合格・不合格の判定を行い、北海道大学長は、これに従って、個々の志願者に対して入学許可又は不許可の処分をするものとされていることを認めることができる。

そして、第一次試験の実施については、大学入試センターが試験問題等の作成、答案の採点・集計等を統一的に行うものとされ(前掲昭和六四年度大学入学者選抜共通第一次学力試験実施要領参照)、第二次試験の成績評定については、前記のとおり入学者選抜委員会がこれを行うものとされていて、それぞれその公正・妥当な運用が制度的に保障されている一方で、これらの試験の採点又は成績評定は、著しく専門的、技術的性質を有するものであること、これらの試験の成績その他前記資料を基礎としてなされる入学者選抜における合格・不合格の判定は、それが志願者の能力・適性に対する判断にかかるものである以上、その性質上必ずしも一義的・客観的な判断基準に従って判断するのには適せず、公正・妥当な試験実施機関の最終的な判断に委ねるのが適当な事項であること、試験の採点若しくは成績評定又は合格・不合格の判定の適否自体が司法審査の対象となるものとすれば、単に争訟当事者についてのみならずその他の志願者についても、試験の答案その他の関係資料を開示して、評定又は判定の当否を審査しなければならないこととなることに鑑みると、これらの事項は、裁判所が具体的に法令を適用してその判断の当否を審査しこれに関する紛争を解決するのに親しまないものといわなければならない。したがって、右のような大学入学者選抜制度の下においては、入学不許可処分を受けた者は、試験の採点若しくは成績評定又は志願者の能力・適性に対する判断の不当を主張して、国家賠償を求めることはできないものと解するのが相当である。

そして、原告は、結局、北海道大学長の原告に対する入学不許可処分の違法事由として、第一次試験又は第二次試験の採点又は成績順位の決定が適正に行われなかったことをいうか、原告の能力・適性に対する判断の不当をいうに尽きるものであって、これらの事項はいずれも司法審査の対象となるものではなく、これらの事由を主張して国家賠償を求める原告の本訴請求は、その主張自体が失当として、理由がないものといわなければならない。

三  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上敬一 裁判官 小原春夫 徳田園恵)

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